ASIA NOW ―アジアの現場から

"「自助努力」のモデルケース"のその後 【スリランカ】

2014年5月1日 Share

4年半ほど前の2009年9月に、この「ASIA NOW」において「『自助努力』のモデルケース」 と題し、スリランカ北西部州クルネガラ県で現地NGOのAIMの仲介で、58の女性自助グループ(SHG)が、外部からの資金援助なしに、約550万スリランカ・ルピー(当時のレートで約451万円)を貯蓄し、約470万ルピー(約384万円)を融資した実績に非常に驚いたこと、そして、ACT(公益信託アジア・コミュニティ・トラスト)の支援で、2009~2011年度の3年間で、35村(厳密にはGN地区)の850世帯に対象を拡大していくということを述べた。今回は、この事業がその後どうなったかについてご紹介したい。

この事業は当初3年間の予定で始まり、3年後の2012年3月末までに837世帯が自助グループに組織化された。目標の98.5%を達成したわけだが、この活動の評判を聞いた県内の他地域から支援要請が次々と来たため、さらに2年間延長することになった。
住民の主な収入源は農業で、果樹(バナナ、ココナツ、マンゴーなど)、野菜(赤ダイコンなど)、香辛料(コショウ)、カシューナッツなどが栽培されている。農地1.5~2エーカー(6,070~8,094平方メートル。うち6割の土地は政府からの借上げ)の小規模農家が全体の8割を占め、1.97万世帯(5人家族とすると約98,500人)が貧困ライン以下の世帯であるとされている(2002年政府統計)。
2014年3月末までの5年間で、32地区の1,181世帯が組織化され、グループ基金額は計約442万円となった(下表参照)。

活動期間 組織化した
グループ数
メンバー数
(人=世帯)
グループ基金額
(預金額、LKR)
GN地区数 DS地区数
1998 -2009年(11年間) 58 610人 5,524,525ルピー(約433万円) 26 1
2009年4月-2014年3月(ACT助成5年間) 109 1,181人 5,714,774ルピー(約448万円) 32 1
合計(約16年間) 167 1,791人 11,239,299ルピー(約881万円) 32 1

GN地区: Grama Niladhari Divisions(スリランカの最小行政単位)
DS地区: Divisional Secretariat Division (GNDの上の行政単位)。ここではPolpithigama DS地区


【グループ回転基金の例】

自宅で夫とレンガづくりをする女性。売値は1ブロック13ルピー(約10円)、1回の窯焼きで5千個製造する

メンバーの預金でまず「グループ回転基金」がつくられ、融資できる金額に達したらメンバーへの融資を始める。しかし、10数人で月千数百円の蓄積では、融資できるまでに時間がかかるため、これとは別に、NGOが管理する基金(ACTからの助成金の一部)からメンバーのビジネス活動目的の融資5,500ルピー(約4,310円、一人当たり、月利1%、半年間)が提供されている。

グループ基金の主な収入源は、①メンバーの貯金(1人あたり毎月100ルピー(約78円)など)、②ローン返済利子、③グループ・ビジネス(ヤシ殻炭、ホウキの製造・販売、パーボイルド米加工・販売、カシューナッツ加工・販売など)である。

融資額、利子率、期間などは各グループで自由に決めている。2009年度に設立されたグループ(メンバー数15人)の資産(2013年11月現在)は、
 ・ 貸付残高77,800ルピー(60,980円)
 ・ 手許現金8,236ルピー(約6,430円)
 ・ 銀行預金126,000ルピー(約98,770円)
で、約4年で16万円以上になった。当初の融資額1,000ルピー(約780円、月利5%)から現在は10,000ルピー(約7,800円、月利4%)となった。

金銭的なものが絡んだ活動だけではない。相互扶助活動の一環として、安価での農業労働提供、病人がいる家庭への支援、葬儀参加者への食事提供、共同購入(塩、食器類)なども行っている。「互いの信頼関係と団結力が強まったのが何よりもうれしい」と語る女性が多かった。


■「マイクロファイナンス」に警戒する住民たち

有機堆肥を使い野菜栽培を始めたプシュパカンティさん

同じ5年をかけるならば、外部のNGOやマイクロファイナンス機関が一括運営する、より大きな「箱」から預金、融資サービスを提供すれば、もっと多くの人が参加できるかもしれない。しかし、過去9年間で訪問した各地で、「外部機関が私たちからお金を集めた後、フォローもなく、そのまま消えてしまった」と嘆く人々の話をたくさん聞いた。(融資、預金、ほかサービスに関する)契約内容が明確に示されていない、あるいは利用者に理解されていない、中には一時的なプログラムで(とくに災害被災地のプログラム)、終了する旨の説明やフォローがされていない例が多いということだ。

AIM代表のラル氏は「クルネガラ県に参入している8以上の機関のマイクロファイナンスは完全に失敗している」という。さほど経験がないNGOも手を出してしまう"マイクロファイナンス・ブーム"の昨今、苦い経験をもつ人々が警戒心を強めるのは当然であるが、住民側も適切な分析・判断力、金融リテラシーを養い、何が自分たちにとってベストかを考え、選択できるようになる必要がある。

この事業で行われているマイクロファイナンス・アプローチ(村落銀行型)の最大のメリットは、住民が自ら所有し、運営することができる「オーナーシップ」にある。都市部よりも人の移動が少なく、近隣住民の団結力が強い農村部の方が適していると思う。

多くのプロジェクトで軽視されがちなのが、最初の「仕込み」(組織化、グループ運営/リーダーシップ/簿記トレーニングなど)と「フォローアップ」である。これを怠ると不正や問題が起き、やがて崩壊する。また、住民が自立運営できるまでにある程度の年数がかかるため、仲介支援には少なくとも2~3年のフォローアップ活動が伴う。

この事業でAIMが新しく導入したアプローチや活動が3つある。

①新規グループの組織化に既存グループを活用

"百聞は一見にしかず"。近隣の同じような境遇にある女性たちの成功体験は共感をもって理解され、参加意欲と組織化のスピードが格段に上がった。

②共同グループ・ビジネスの開発と推進

第一の目的は、その利益でグループ基金を強化すること。これまで伝統的に行われてきたヤシ殻炭づくりに加えて、地域の特性と最新の市場での需要を分析し、カシューナッツの加工、パーボイルド米加工*などが実践されている。今後は、グループ基金の強化だけでなく、各メンバーが適切に賃金配分される仕組みを確立することが課題だ。

③有機農業の実践

長年の農薬の使用によって深刻な健康被害を起こしており、投入費もかさむことから、2012年度から各地で有機実践農場を設置している。

* パーボイルド白米とは、精米する前に米を水に浸けた後、蒸し、もみ殻付きのまま乾燥加工した米であり、腐りにくく、栄養価が高く、保存期間が長い。しかも自家製の食品は工場生産のものよりも品質が良いと考えられているため、都市部も含めて市場での需要が高まっている。このため、過去の本事業でも、女性メンバーがパーボイルド白米の加工業を行っている。


■失われた相互扶助の復興、女性の声

2009年に会った女性たちにふたたび集まってもらった。98年に最初にできたグループは、ロール・モデルになっている

各地のグループを訪問すると必ず出されるゴマ(特産品)の甘いお菓子

AIMの評価によると、本事業の活動の結果、貯蓄と収入向上活動だけでなく、地域住民の間に、社会的な調和と理解が進んだという変化が明確に認められる。住民間で会合や経験共有を定期的に行うことで、事業に関連することだけでなく、互いの私生活に関することも共有されるようになった。互いを思いやる意識と団結力が強まり、農作業に出る家の子どもをあずかる住民も出てきた。昔は当たり前のように行われていた習慣が、いつの間にかこうした農村部でも失われつつあったということでもある。

また、農家の女性たちは、政府関係者など前で自ら発言しなかったが、今では自信をつけ、会合の場で堂々と支援を要請できるようになった。

自助グループは、合計で500万ルピー(約392万円)以上の基金をつくりあげたことで、貧困女性たちにとっての新しい強みとなっている。希望すれば自分たちの基金から融資を受けることができるのだ。本事業を開始する前は、高利貸しから1万ルピー(約7,340円)を借りたら、利子を計6千ルピー(約4,700円。月利10%)も払わなければならなかったのが、今では1,200ルピー(約940円)で済む(月利2%の場合)。

2013年度には60人以上の農民が有機農業を始めた。有機堆肥をつくり、野菜や米栽培に利用することによって、収穫までの費用を減らすことができている。2013年度下半期で、さらに50人の農家が有機農業に参加する予定である。

2009年の記事で、自宅から15km離れた農地(ゾウが畑を食い荒らす)に毎日通い、毎夜2km歩いて水浴び場に通っていた人たちがいると紹介したが、現在ではモーターバイクを持ち、自宅に電気と水道が通るようになった。

■経済問題の解決だけでいいのか- Now what?

20140501-5.jpg

【図1】クリックすると拡大します

マイクロファイナンス活動を通じた住民の経済安定化とビジネス開発という事業の目的と目標は、ある程度達成されつつあるなかで、改善すべき点や今後の進む方向性は何か?について実施団体AIMのチームと話し合った。

【図1】のとおり、事業の開始当初から、「各自助グループをネットワーク化」するという構想はあったが、AIMが住民のデータや進捗についての情報蓄積を容易にするというほかは特別なメリットが関係者間で認識されていたわけではなかった。ネットワークという「箱」だけ作っても、住民がその意義を理解しなければ、参加しない。家庭や集落レベルの状況は改善されたが、より大きな範囲での地域社会の問題はどうだろう。グループが団結することで、解決できることはないのか?

後日、AIMが分析した地域の問題は、次のようなものであった。

【地域が直面している問題】
・ 女性は性的搾取、レイプなどの被害を受けている。とくに16~18歳の女子が危険にさらされている。
・ 女性は土地所有権を持てないことが多い。
・ 地域の保健センターが機能しておらず、多くの農民が、農薬や化学肥料の使用が原因と思われる肝疾患を発症している。
・ 清潔な飲料用水がない。
・ 畑で人間とゾウの争いが頻発し、穀物や生命が危険にさらされている。

現在も、近隣地域からの仲介支援要請は来ているが、自主的に設立したい地域があれば、既存グループに仲介を任せ、AIMとしては新しい場所での組織化は一度ストップし、既存の設立グループと話し合い、住民自身が問題を特定する機会とネットワーク化の機会を提供する活動を優先しよう、ということになった。

そこで2014年度は、現在参加している1,181世帯(家族員数約4,600人)のグループのネットワーク化をはかり、集団で自立発展を推進する。

・ 政策決定者に対して集団で政策提言とロビー活動を行い、法的資格の付与を求める。
・ 保健省の政府指定医とともに、健診活動を行うよう、強く求める。
・ 相互交流、視察、経験共有活動を行う。
・ 重要な関連情報を得るために、サービス提供機関、政府職員等と連携する。
・ 共同ビジネスを奨励し可能性を探る、回転基金から融資提供し、銀行へリンクさせるなどして、共同ビジネスを発展させる。

<報告:鈴木真里(事務局長)>




文中の為替レート:1スリランカ・ルピー=0.7839日本円(2014年4月30日現在、Bloomberg)