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スラム地域の子ども支援【カンボジア】

2013年1月28日 Share

2009年の低迷から一転、2011年は実質GDP 成長率が6.9%となり日系企業の進出も進むカンボジアの首都プノンペンでは、新しいビルが次々と建設され、華やかさを増しています。しかし都市開発の陰では、職を求めて地方から移住してきた貧しい人々が、スラムでの厳しい生活を強いられています。2012年12月、スラムに暮らす子どもの教育支援の現場を訪問しました。

■衛生、教育、貧困...と多くの問題が山積するスラム地域

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アンルン・クンガン地区のスラム。写真の地域では、用水路の上に家を建てて生活しています。再定住用地を補償されなかった人も多いといいます

2001年以降、プノンペン中心部にあった多くのスラム地域では、住民が次々と強制退去させられています。
強制的に退去させられた世帯の一部には、政府から再定住先に小さな土地が割り当てられましたが、電気や水道、道路などは整備されませんでした。その他の住民には土地も与えられず、追い出された結果、郊外に不法居住するようになりました。プノンペン市北西部の郊外にあるアンルン・クンガン地区もそのひとつです。
現在、この地区には上下水道、ゴミ集積場、トイレなどが不足しており、人々は劣悪な衛生環境で生活しています。住民の4割は貧困世帯で、2割は失業状態、5割は不定期な収入しかなく、中学校に行くべき年齢の子どもの20%、高校に行くべき年齢の子どもの30%以上が学校に通っていません。
ACTでは、この地区の子どもたちが9年間の義務教育(小学校6年、中学校3年間)を続けて受けることができるようにするための「子ども育成プロジェクト」(実施団体「ソヴァンナ・プーム」(SP))への支援を2012年4月から開始しました。

■どうして学校を続けられない?

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スラム地域の子どもたちが通うセン・ソック小学校(生徒数2,000人)。教室や机・椅子が足りず、床に座って勉強する子もいました

中学校や高校への進学率が低い原因についてSPの事務局長オウト・サランさんにお聞きしました。
「カンボジアでは1970年代のポルポト政権によって教師など知識人が虐殺・追放され、教育制度が破壊されました。今の子どもたちの親は、この時代に教育を受けられなかった世代で、教育の重要性についての認識が大変低いのです。また、スラム地域では、子どもは児童労働や性的搾取、家庭内暴力の犠牲になりやすく、また劣悪な衛生環境にいるため、健康を害し、学習を続けられない原因となっています。」

カンボジアでは義務教育が無償で提供されていることになっていますが、教師の給与が非常に低いこともあり、教師が生徒から非公式に授業料などを集めるケースが多く見られます。今回訪問したセン・ソック小学校では、5年生の男の子から、「毎日300リエル(約6.5円)を先生に払っている」と聞きました。1ヶ月に換算すると150円近くを教師に払っていることになり、貧困世帯にとっては大変な負担です。このような費用は中学や高校では試験代や補習授業代などでさらに高くなります。

このように、教育への理解の低さに加え、子どもが働かざるを得ない経済状況や劣悪な衛生環境など複合的な原因で子どもたちを学校から遠ざけ、子どもたちに肉体的・精神的な影響を与えています。
そこで、ACT支援事業では、特に弱い立場に置かれている子どもたちに奨学金や学用品を提供するとともに、子ども会(189人、うちリーダー14人)を組織化し、子どもが相互に学びあい行動を起こす活動を通して、保健・衛生知識の普及と能力強化を図っています。

※奨学金は、子ども会メンバーのうち114人(うちリーダー14人)、学用品は全てのメンバー(計189人、うちメンバー14人)に提供。

■子どもから子どもへ、知識を普及

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現地NGO代表のオウトさん(右)から家のことを聞かれ、泣き出してしまったトゥーイ君(左)。母親がおらず、父親の不定期な仕事で生活しています。子ども会についてハキハキと答えてくれたときとのギャップに、彼らを取り巻く環境の厳しさを痛感しました

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セム・アーウさん(左)らリーダーの問いかけに元気に答えるメンバー。不安定な生活や重労働などの影響もあり、スラムでは家庭内暴力は日常茶飯事で、子どもにとっても身近な問題です

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セム・アーウさん(左)のお姉さん(中央)は大学進学資金を貯めるため働いています。
お父さん(右)は、「夫婦の収入と奨学金で、高校まではなんとか行かせられても、大学までは難しい」と話しました

子ども会活動では、HIV/AIDS、感染症などの身近な問題や手洗いの方法などについて、年長の子どもリーダー(中学生以上)が中心になり、子ども同士で学び合います。こうして習得された知識は、劇、人形劇、歌、ビデオ、ゲーム、紙芝居、話し合いなどを通して地域の大人や子ども会に参加していない子どもたちに広められています。
メンバーのトゥーイくん(14歳、5年生)は、「子ども会活動では、保健・衛生についての知識を得られたし、批判的な思考や、物事を分析する力もついたと思います」と話してくれました。

私が訪問した日は、連続テーマとして「家庭内暴力」を取り上げていて、地域の大人や子どもたちの前で発表するため、これまでの復習をしていました。
リーダーが前に立ち、メンバーたちに「家庭内暴力はなぜ悪いことですか?」「家庭内暴力を防ぐにはどうしたらよいですか?」など質問を投げかけると、次々と「家庭内暴力は家族に精神的・肉体的なストレスを与える」「家庭内暴力を予防するにはケンカせずに働くべき」「怒りを止める方法を知らなければならない」などと答えました。

子ども会をまとめ、メンバーを指導するリーダーには、子ども同士の学びあいの方法についてトレーニングしています。
高校2年生のセム・アーウさんは、7年間のメンバーとしての活動実績を評価され、3カ月前にリーダーになりました。
「リーダーになってから、子どもたちの行動を変えていくことの難しさを特に感じています。知識が定着して習慣になるように、少しずつ働きかけていきたいと思います。」

■地道な活動で、子どもや家族の状況が少しずつ変化

セム・アーウさんは両親と3人のきょうだいの6人で暮らしています。父親はガードマン、母親は清掃員として働き、一家の月収は150ドル(約1万3,000円)ほどだそうです。自宅でお父さんに話を伺いました。
「私たちは、12年前にプノンペン中心部のスラムから、この家へ引っ越してきました。現在も土地の権利は持っておらず、いつ再び強制的に移住させられるかわかりません。これまで家族が一緒になんとか生活できているのは、幸運だと思っています。
現在の収入では、病気になっても通院し薬を買うことが難しいので、健康でいられることにも感謝しています。これは、アーウが子ども会活動で保健や衛生について学んでいるからだ思います。
子どもたちには、より高いレベルの教育を受けて、生きていくためのスキルを身に付けてほしいです。」

ソヴァンナ・プームの地道な活動の結果、セム・アーウさんたちのように、中学校に進学し、義務教育課程を終える子どもの数が少しずつ増え、結核、HIVの新規感染や性的虐待などの件数が減ってきています。これからも、ACTでは、子どもたちがより長く教育を受け、児童労働や搾取などの犠牲にならず健康に生活できるよう、支援を続けていきたいと思います。

<報告:辻本紀子(ACC21スタッフ、ACTアシスタント・プログラム・オフィサー)>