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低コストの寄生虫症対策~10校の約3,150人に投薬~【フィリピン】

2013年3月29日 Share

■単なる頭痛で済ませると危険!寄生虫症の実態

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「投薬を受けた人?」という質問に手を挙げて答える子どもたち(アニバンガン小学校)

フィリピン南部の島・ミンダナオの東部に位置するダバオ・デル・ノルテ州のカルメン行政区とサントトーマス行政区では、安全な水、衛生的なトイレなど住居環境の基本設備が整っていません。このため、土壌伝播寄生虫症(STH)、住血吸虫症、リンパ系フィラリア症などの寄生虫症(※顧みられない熱帯病)の感染が多くみられます。知識不足から単なる「頭痛」で済ませてしまうことも多いのですが、中には肺や脳を冒し、放置すると死に至るものもあります。とくに学齢期の子どもは栄養失調、成長遅延、貧血などを引き起こし、その結果、授業の欠席が多くなったり、成績が下がるなど学業への影響も懸念されます。

寄生虫症は、適切な薬を服用し、その原因となる寄生虫を体外に排出することでしか、治療することができません。そこで、フィリピンでは、地域の保健所で無料で薬を配布しています。しかし、保健所が遠いため行くことが難しかったり、そもそも薬を配布していることを知らないため、薬を服用しない人が多くいます。確実に投薬するには、医師や看護師が家や学校を巡り、投薬する必要がありますが、コストがかかるため、実施されることは稀です。


■アフリカでの成功事例をもとに学校集団投薬を計画

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2012年9月の集団投薬のようす。住血吸虫病に効くパラジカンテル薬は、体格に応じて薬の量が異なります

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複数の薬を投与するにあたり、教師と保健局の職員がそれぞれの生徒の身長に合わせて薬を準備しました

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サルバシオン高校の生徒と西島(右端)。投薬を受けるために保健所に行ったことがある生徒はいませんでした。また、小学生のときに学校で投薬を受けたことがある生徒はいましたが、1種類の薬しか投与されなかったそうです

ACTでは、地域の学校で「無料で入手できる薬」と「すでにある人材(教師)」を組み合わせて効率的に投薬を行って寄生虫症を改善し、学業成績への影響調査を行う取り組みを2012年度から支援しています(実施団体:フィリピン大学マニラ開発財団)。保健局で配布される複数の虫下し薬の飲み合わせなどを考慮して時期を決め、教師が生徒に投薬します。アフリカでの成功事例を知ったベリザリオ医師が、フィリピンでの実施を計画したそうです。

保健局と教育局の連携促進会合や、医師、看護師、教師対象研修を経て、2012年9月20日・21日に対象2地域の小学校と高校計10校で、土壌伝播寄生虫症(STH)と住血吸虫病に対応する2種類の薬の集団投薬が行われました。全生徒数の77.8%にあたる計3,148人が投薬を受けました。

■投薬のようす
ほとんどの教師にとって投薬は初めての経験です。マバウス小学校の先生は「初めは戸惑いましたが、医師や看護師などがいてくれたので不安は解消されました」と話してくれました。

投薬後1日以内に、排泄物と共に虫が排出されることがほとんどですが、体内にいる虫の数が多い場合は、口から吐き出されることもあります。「(体内から虫が出てきて)驚いたけれどおなかがすっきりした」「頭痛が治った」と話す子どももいました。

アニボンガン小学校の校長先生は「(投薬後)子どもの顔が明るくなり、学校行事への参加率が上がった」と、この事業を高く評価していました。今後は、試験の結果を記録し、学業への影響を実証していきます。

一方、副作用を懸念した親から同意が得られなかったり、子どもが投薬を怖がって学校を休むなどしたため、全生徒が投薬を受けたわけではありません。PTA連盟のランダサン氏は「投薬を受けた子どもの保護者からは活動の継続を要望する声がある。投薬率の向上に向け、全面的に協力していきたい」と話しました。

保健省ダバオ地方局感染症部長のカンポス医師は、この取り組みを評価し、地方の医療関係者会議での成果発表を依頼しています。フィリピン大学マニラ開発財団は、今後、実績とデータをもとに、国全体の保健政策として提言していく計画です。

<報告:西島恵(ACC21スタッフ、ACTプログラム・オフィサー)>


「顧みられない熱帯病」(NTD:Neglected Tropical Diseases)
世界的に蔓延している14の重要な寄生虫症や細菌による感染症をいう(3大感染症であるエイズ、結核、マラリアを除く)。アジア、アフリカを中心に熱帯地域、貧困層10億人以上が感染し、年間50万人が死亡していると推定されている。アジアでも流行している疾患は、ブルーリ潰瘍(熱帯性潰瘍)、デング熱、ハンセン病、リンパ系フィラリア症(象皮病)、土壌伝播寄生虫症(STH)、トラコーマ、嚢中症(のうちゅうしょう)、狂犬病、胞虫症、食物媒介吸虫類感染症(FBT)、風土病性トレポネーマ症。

参考:日本国際保健医療学会笹川記念保健協力財団World Health Organization