ASIA NOW ―アジアの現場から

美しいホワイト・ビーチの裏側で【フィリピン】

2017年6月9日 

■5つ星ホテルが林立するビーチ・リゾート

ボラカイ島はフィリピン中部、シブヤン海に浮かぶ小さな島だ。マニラから飛行機で南南東に約1時間、パナイ島のカティクラン空港から船で15分揺られると、そこにはため息が出るほどすてきな景色が広がっている。近年、旅行業者が実施した口コミアンケートでは「アジアのベストビーチ」第1位にランクインし、「天国の島」と形容されるなどして、その人気は急上昇中だ。透きとおった碧い海と4㎞にも及ぶ白い砂浜は、時間を忘れてゆっくりのんびりしたいと思う欧米・東アジア・富裕層のフィリピン人観光客を引き寄せ、多くの有名ホテルが進出する世界的なビーチ・リゾートとなっている。

島の中で最も美しく、遊泳に適した場所であるホワイト・ビーチは、今でこそファッショナブルな観光客が行き交うにぎやかな場所であるが、もともとは先住民であるアティ族の土地であった。ところが、1970年代から80年代にかけて入植者がやってきて、アティ族が先祖代々引き継いできた土地を浸食していった。1990年代から2010年にかけてはますます観光ビジネスが白熱化し、アティ族はフロントビーチから追い出され、住まいを奪われてしまった。彼らは肌の色が黒いことから、「dumi」(dirtの意)と呼ばれて差別を受けてきた。

居住区の裏手に広がるビーチで遊ぶアティ族の子どもたち

■アイデンティティを取り戻すために~アティ族の闘い

こうした土地の収奪や差別に対して、アティ族の老若男女のリーダーたちは2010年に会議を開き、どうすれば自分たちの失われた土地やアイデンティティを取り戻せるかを話し合った。彼らは翌年、ホワイト・ビーチの反対側にあたる島の一角に仮の居住地を設定し、フィリピンのAssisi開発財団や少数民族国家委員会のサポートによって2.1ヘクタール(約200m四方)の永住地を獲得することに成功した。しかし、居住権が認められたとはいえ、その土地すべてを使うことはできない。なぜなら、「土地税を払ってきた自分に所有権がある」と主張する「オーナー」たちの強い抵抗があるからだ。そのため、いまだにアティ族は土地をめぐる利権争いに悩まされ、2013年にはアティ族リーダーが暗殺されるという痛ましい事件も起きている。

Ati_village.jpg

アティ族の人たちが暮らす居住地。長い闘争の末、2011年にフィリピン政府から永住権を認められた。コミュニティには30~40軒ほどの2階建ての家が立ち並ぶ



■私は差別を受けている人を見たら闘うわ

その居住地に家族8人で住むアティ族のベンジーさんは、上は23歳、下は14歳まで5人の子どもを持つお母さんだ。彼女は12歳の時に結婚し、14歳で第1子を設けた。自分は小学校を卒業することができなかったため、子どもにはしっかりとした教育をつけてあげたいと思ったのだそうだ。サリサリストア(小規模の日用雑貨品小売店)と食べ物屋を経営して、教育費や生活費を稼ぎながら子育てをし、さらに、彼女自身も小学校修了試験を受け、独学で英語を身につけた努力家だ。朝3時に起きて食事の支度をし、夜は10時まで食べ物屋の切り盛りをする。全身から疲れをにじませながらも、仕事の合間をぬって英語で次のように話をしてくれた。

「私はいま本当に幸せです。私は教育を受けられなかったので、上の男の子が大学卒業資格をとり、下の女の子たちもハイスクールに通ってくれて、本当に嬉しく思っています。アティ族はずっと差別を受けてきましたが、教育を受けると知識や知恵が豊かになって差別を受けなくて済みます。私は差別を受けている人を見たら闘います。それがたとえ公権力であったとしても」

現在、アティ族コミュニティではコミュニティ・ビジネスとして石けんづくりを行っている。近隣のリゾートホテルやギフトショップに卸してきたが、現在はクオリティの問題、外に働きに出る若者が多く人手不足であること、リーダーがやる気を喪失して辞めたいと言っていること、健康被害など、多くの問題に直面している。それでも、ベンジーさんはコミュニティにとって収入向上の方途であるので続けるべきだと思っている。

Ati_Vengee.jpg

ベンジーさん(写真左)の自宅キッチンにて。長男を大学に進学させたことは、彼女の誇りになっている

観光客が増えることはアティ族の人々にとってどのような影響をもたらすのだろうか。現地NGOの支援を受けて取り組み始めた石けんの質をうまく改良できれば、顧客を獲得して暮らし向きは楽になるのだろうか。それとも、コミュニティ・ビジネスを進めたいと思う人たちと、観光業に働き口を求める人たちとの間でコミュニティ内部の分裂を引き起こすのだろうか。リゾート開発によって奪われたアティ族の人たちの生活を取り戻すのはそう簡単なことではなさそうだ。










<報告:吉野 華恵(アジアNGOリーダー塾 2016年度修了生)>