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2014年8月6日  

市民が参加する"国際連帯税"の運動
―不公平な世界の是正に向けて―


ACC21は、「政策・制度変革の流れ」を推進する活動の一環として、「国際連帯税フォーラム」の会員として参加し、「国際連帯税」の実現に向けた啓発・提言活動に協力しています。そこで本日は、「国際連帯税」をめぐる世界の動向と日本の政府・市民の取り組みについて、ご紹介します。

■"国際連帯税"構想が生まれるまで

国際連帯税フォーラム公開講演会(2013年6月、青山学院大学。提供:国際連帯税フォーラム

"国際連帯税"とは、あまり聞きなれない言葉だと思います。"国際連帯税"という概念の誕生は国連が2000年に開いた「国連ミレニアム総会」まで遡ります。世界189カ国が参加し、新たな千年紀の黎明に際して2015年までに世界の貧困層の状況などを改善しようと、国連総会は8つの目標(「ミレニアム開発目標」)を定めました。8つの目標とは、①極度の貧困と飢餓の撲滅、②初等教育の完全普及の達成、③ジェンダー平等推進と女性の地位向上、④乳幼児死亡率の削減、⑤妊産婦の健康の改善、⑥HIV/エイズの蔓延を阻止し、その後減少させる、⑦環境の持続可能性確保、⑧開発のためのグローバルなパートナーシップの推進。

しかし、課題は、これらの目標を達成する上で必要な財源の確保でした。先進国の政府開発援助には、限りがありました。1970年の国連総会で先進国の国民総所得の0.7%を途上国援助に振り向けることを決議したのですが、2000年当時のOECD開発援助委員会(DAC)加盟国の平均はわずか0.22%。当時0.7%を満たしていたのは北欧の国を中心に5カ国。日本は0.23%(2012年現在0.17%にさらに減少)、米国は0.10%(同0.19%に上昇)。また、政府開発援助は、国益に影響され、必ずしも援助の目標達成のために効率よく使われていたわけではありませんでした。そこで国連は、2002年にメキシコで「開発資金国際会議」を開き、世界の政府開発援助を当時の500億ドルから倍増させるため、先進国が国民総生産の0.7%を達成するのを促すことを決める一方、不足分を補うための財源獲得方法として「革新的資金メカニズム」を提案しました。そして、この提案に応え、"国際連帯税"の構想を2005年に提唱したのが、フランスのシラク大統領(当時)でした。この"国際連帯税"の中には、環境税、航空券税、金融取引税、多国籍企業への課税、武器取引税などが含まれていました。

■航空券連帯税:最初の"国際連帯税"の誕生
フランス政府は、2006年2月に"国際連帯税"導入のためのパリ国際会議を開催しました。これには、93カ国の政府、国連以下18の国際機関、60のNGOが参加しました。日本政府は出席しませんでしたが、日本からは市民団体(NGO)の代表が参加しています。そして、フランス政府は、この5カ月後の2006年7月に世界に先駆け航空券連帯税を実施することになりました。

航空券連帯税とは、航空券を購入したときに、その運賃に税金分を上乗せし、他の空港税や利用料などと一緒に航空会社が税金を徴収するものです。その税金は、基本的に定額で、国によって異なりますが、フランスの例をとりあげると、エコノミークラスで約520円、ビジネスクラスで約5,200円といった金額です。2014年6月現在、10カ国で導入されています。韓国は2007年から参加していますが、日本は、まだ参加していません。

上記10カ国の航空券連帯税の税収総額は、約2.21億ドル(2010年)ですが、フランスの場合は年間約1.7億ユーロ(約233億円)、韓国の場合は約150億ウォン(約15億円)です。フランスについては、2006年に連帯税を導入して以来、10億ユーロ(約1,400億円)に達しています。これら税金は、2006年に創設された国際機関UNITAID(ユニットエイド)にその大部分が拠出されます。この機関は、エイズ、結核、マラリアという感染症で苦しむ途上国の人々のため、それらの国々では手に入れることが困難な高品質の医薬品や診断薬の価格を下げて、広く供給が行き届くことを目的としています。因みに、航空券税は、出国便の航空券に課税されますから、フランスや韓国を訪問した日本人も帰国便で支払っていることになります。国際連帯税の実現に向け活動する市民団体「国際連帯税フォーラム」(後述)の試算によると、2013年にフランスを訪問した日本人73.2万人は688.1万ユーロ(約8億9000万円)を、韓国を訪問した日本人274.8万人は27.5億ウォン(約2億4500万円)をこれらの国に納税したことになります。

「国際連帯税フォーラム」関係者は、さらに仮定の話として以下のような試算をおこなっています。「そこでもし、日本が航空券連帯税("国際連帯税")を導入していたら、外国の方からどのくらい税収を得ることになるのでしょうか?つい先日、訪日外国人が2013年に1,000万人を超えたとの報道がありました(1,036.4万人)。それでこれにフランス並みの定額税がかかっていたとすれば(エコノミー500円、ビジネス以上5,000円)、121.8億円となります。なお、同年の出国日本人は1,747.3万人でしたので、日本人からは205億円の税収となり、外国人・日本人を合せて約327億円の税収となります。」(「国際連帯税フォーラム」田中徹二)

■金融取引税:第2の"国際連帯税"
近年、注目を集めつつあるのが、金融取引税です。この構想が生まれてきた背景には、約5,000兆円と言われる実体経済の何十倍とも、何百倍とも言われる投機的性格を持つ金融資産の流れがあります。この金融資産には、通貨、株式、債券、そして聞き慣れない言葉ですが、デリバティブ(金融派生商品。株式、債券、外国為替(通貨)等の伝統的な金融取引のリスクを回避するために開発された金融商品の総称)などが含まれ、これらの取引に課税しようとするものです。

この税の導入を巡っては、世界の金融業界や経済界の強い反対があり、これまで実現は難しいとされてきました。しかし、2011年9月、欧州委員会はEU加盟国に対し、2014年に欧州金融取引税の導入を求めるEU指令案を提出しました。その内容は、EU域内にある金融機関等の取引に対し、株式と債券取引には0.1%、デリバティブ取引には0.01%を課すというものです。フランスは、この提案にいち早く応じ、2012年8月には上場株式の取引額に応じて課税するという金融取引税を導入しました。

イギリスの反対もあり、EU加盟国全体での導入は無理となりましたが、EU11カ国は2014年5月に財務相会議を開き金融取引税を2016年1月までに導入することを決めました。まずは株式と一部のデリバティブへの課税から始める計画です。その結果、税収は当初見込みの300億ユーロ~350億ユーロ(3.6兆円~4.2兆円)にはとうてい届きませんが、段階的に税収を増やしていく予定となっています。

こうした11カ国の動きに対し、欧州のNGOや労働組合は、デリバティブへの課税の拡大(その分税収が上がる)と「税収の相当部分を地球規模課題に使用することの明確化」を求め、街頭パフォーマンスやソーシャルメディアを使ってのキャンペーン、そしてロビイング活動を強化しています。つまり、第2の国際連帯税を目指し活動しています。また、米国では全国規模でのウォール・ストリート税(金融取引税)キャンペーンが盛り上がっています。とくに傘下の全米看護師組合(NNU)は「ウォール・ストリート税で米国を治療しよう」とのスローガンの下で活動を活発化しています。

ところで、地球規模課題対策に現在不足している資金は約35兆円に上ると言われています。EU11カ国の金融取引税は主に自国の財政補てんに使われ、その一部が地球規模課題対策に回ると思われますが(ドイツ、フランス、ベルギーが主張)、11カ国からEU全体へ、そして米国、日本と金融取引税が導入されれば、地球規模課題対策のための資金が相当規模で捻出されていくことが期待されます。

*地球規模課題対策に年間約46.5兆円~47.5兆円が必要とされています。その内訳は以下の通りです。世界の貧困問題(食糧危機、感染症等含む):2,936~3,056億ドル(28~29兆円)、気候変動問題(技術移転、適応など):1,950億ドル(18.5兆円)。
これに対して、世界の政府開発援助(ODA)の総額は1,256億ドル(12兆円)。不足分はおおよそ3,630~3,750億ドル(約35兆円)。


■日本での政府、市民の取り組み
以上、見てきたように、EUの国々は、とくにフランスは"国際連帯税"導入に向けて積極的に動いています。では、わが日本ではどうなっているのでしょうか。以下に、これまでの経緯と現状についてご紹介します。

1)市民団体(NGO)の動き

国際連帯税フォーラム総会(2014年4月、自治労会館。提供:国際連帯税フォーラム

"国際連帯税"に繋がる市民の動きは2001年に遡ります。フランスのアタックというNGOが唱えた、いわゆるトービン税(ジェームス・トービン博士が1972年に発表した、投機的な資金の国際移動を規制するための税)を使って貧困解消に向けるという運動に共鳴した市民活動家たちがアタック・ジャパンを2001年に設立しています。その後、事情があって、2004年に、一部市民活動家と大学研究者が、市民団体オルタモンドを新しく設立しています。そしてその目的は、同じくトービン税への取り組みを行うことが優先課題でした。そして、このオルタモンド設立の主導的役割を担った市民活動家が、前述の2006年に開かれた「革新的資金調達に関するパリ会議」にフランス政府より招かれ、帰国後、仲間と共に国会議員との勉強会、財務省との懇談会などを開いています。これらの活動を背景に、市民活動家や研究者そして労働組合関係者が2011年に「国際連帯税フォーラム」を創設するに至りました。そして現在まで、"国際連帯税"運動を推進することを目的に積極的な活動を続けています。

2)「国際連帯税創設を求める議員連盟」の創設

「国際連帯税創設を求める議員連盟」の勉強会(2014年6月。提供:国際連帯税フォーラム

一方、法制度を作るためには国会議員の働きがカギを握ります。国際連帯税の構想に賛同した超党派の国会議員有志が、2008年2月「国際連帯税創設を求める議員連盟」を創設しました。初代会長は、津島雄二衆院議員(自民党・当時)、2代目は広中和歌子参院議員(民主党・当時)、3代目は林芳正参院議員(自民党)、4代目は川口順子参院議員(自民党・当時)、そして現在は衛藤征四郎衆院議員(自民党)と繋がっています。現在、同議員連盟には69人のメンバーが参加し、上記「国際連帯税フォーラム」のメンバーと合同会議を開くなど緊密な関係を持ちながら、連帯税創設に向けた活動を行っています。
議員連盟による努力の結果、2010年には、政府税制調査会が専門家委員会の下に「国際課税小委員会」を設け、本格的な検討を行いました。また、政府の税制改正大綱に、国際連帯税について"真摯に検討する"、2012年8月「抜本税制改革法」には"検討を行う"、と曖昧な表現ながら明記されました。しかし、実現に至ってはいません。
因みに、日本政府は、前述の2006年のパリ会議で発足した「開発のための革新的資金調達に関するリーディング・グループ」(38カ国参加)に議員連盟が創設された2008年に加盟し、2010年12月には議長国として立候補し、東京で第8回リーディング・グループ総会を56カ国の参加を得て主催しています。

3)国際連帯税フォーラムの誕生と役割

ACC21が会員として参加する「国際連帯税フォーラム」は、前述の通り、"国際連帯税"にすでに関わってきた人たちや研究者そして労働組合関係者によって2011年に創設されました。その役割は、以下の通りです。

①「開発のための革新的資金調達に関するリーディング・グループ」との連携

このグループは、現在65カ国で構成されていますが、フォーラムの代表理事自身が、2006年のパリでの会議に招かれてから、連絡を維持し、最近も2012年に東京で開催されたIMF・世界銀行総会のサイドイベントとして、「国際シンポジウム:金融取引税・国際連帯税は世界を救うか?」をこのグループと共催しています。

②「国際連帯税創設を求める議員連盟」との連携

上記の通り、緊密な連携を保ちながら、連帯税実現に向けた共同活動を行っています。

③専門家・有識者の参加によるシンクタンク機能

フォーラムには、専門部会が設けられ、大学関係者を含む専門家や有識者が上記議連の要求に対応するなど、必要な調査研究レポートを作成しています。

④日本と世界の市民社会との連携

日本国内における理解者・支持者の確保のための普及活動を行うとともに、国際連帯税の実現に取り組む欧米のNGO等と連携し、その効果を高めます。


■さいごに―あなたも参加しませんか
本来なら、日本政府も日本の市民も国際連帯税実現に向けて、より積極的に動く必要があると考えます。何故なら、日本のODAは、当初予算額において最高額であった1997年の1兆1687億円から2014年の5502億円(外務省発表)に半減していること。これは、日本経済が苦境に陥っていることを物語っています。世界的にもDAC24カ国(欧米や日本などの援助国)が2012年に供与したODA総額は前年から54億ドル(約5400億円)減り、2年連続の減少になっていることです。これも、世界の先進国の経済が低迷していることを物語っています。しかし、世界には、冒頭にご紹介した2015年を目標にした「ミレニアム開発目標」の一部の達成もしくは目標に近づくことができる見通しがあるものの、今なお、毎日十分な食事をとることが出来ず、清潔な水も飲めず、一日1.25ドル(約125円)以下の生活を送る"極度の貧困下"にある人たちが約12億人いるのです。日本人口の約10倍に相当します。人間として、私たちは、こうした人たちや子どもたちを無視できるのでしょうか。日本政府は、政府の財政状況が悪ければ、率先して国際連帯税を推進するリーダーシップを発揮すべきです。幸い、今年の5月5日にパリで開かれた日仏首脳会議の後、安倍首相とオランド大統領は、国際連帯税にも触れて、以下の確認を共同プレスリリースで発表しています。「両国は、食料安全保障、エネルギー、気候変動、UHC、革新的資金調達を含む地球規模課題の解決のために開発協力を継続する。こうした開発課題に関する日仏協力について議論するため、近い将来に日仏開発協力対話を開催することを確認した。」(安倍晋三日本国総理大臣のフランス共和国訪問の際の日仏共同プレスリリースより)。私たちは、安倍首相がこの確認内容を速やかに実行することを強く期待するものです。

一方、私たち市民も、同じ人間として、日々の糧を得られない極度の貧困下にある人たちに、そしてエイズ、結核などで苦しむ人たちに効果的な支援が届けられるよう、国会に働きかけ、世界のODAの不足分を補うべく日本政府がいち早く"国際連帯税"を導入するよう、運動を展開する必要があります。

「国際連帯税フォーラム」は、極めて小規模な市民団体です。代表理事が専従スタッフを兼任。理事メンバーが役割を分担して彼を支えています。彼は、オルタモンドの活動を始め、それがきっかけで、フランス政府が2006年に主催した「革新的資金調達に関するパリ会議」に招かれたのです。国際連帯税フォーラムのウェブサイトを訪ねてみてください。そしてこの記事をお読みくださったあなたも会員になって、新しい地球社会を創り出すためにご一緒に活動しませんか。

<報告:伊藤道雄(ACC21代表理事)>


※本報告をまとめるにあたり、「国際連帯税フォーラム」が発行する記事を参考にしました。なお、8月28日現在、同フォーラムの田中代表理事の助言もあり、一部データの修正と情報をアップデートしました。