ニュース
2020年5月20日    

女性農家を起業家に! スリランカ事業成果報告 その1
~草の根女性リーダーたちとの出会い~


ACC21は、現地NGO「ウバ・ウェラッサ女性団体」(略称:UWWO)とともに、「スリランカ女性住民組織による共同農業ビジネス開発と市場開拓を通じた地場産業の育成と女性のエンパワメント」共同プロジェクトをたちあげ、2017年4月にスタートしました。
このプロジェクトは、UWWOを中心とした18の女性組織のメンバー780人が、村の特産品であるピーナッツや有機農産物に付加価値をつけて新たな市場を開拓し、農業で十分な収入を得られるようにするとともに、長年変えられなかった商慣行を打ち破り、当事者が自分たちの手で新しい地場産業を実現するという画期的なチャレンジです。
3年計画の最終年度を終えたいま、数回に分けて、このプロジェクトを振り返っていきます。(報告:事務局長、事業担当:鈴木真里)


「仲買人の言い値で買い叩かれ、利益はほとんど手元に残りません」と口々にうったえるスリランカの農村の女性たちは、十分な教育を受けていないうえ、生活や医療、子どもの教育に必要な収入がありません。早婚の問題も多く、10代で結婚・離婚した女性たちの多くは、養育費や慰謝料がないままに、子どもを育て、経済的な困難に直面しています。

紅茶の産地で有名なウバ州のモナラガラ県ウェラワヤでは、農業だけでは十分な収入が得られず、村人の7割が1日約90円以下の生活で、生活保護を受けていました。地域で30年以上活動している現地NGO「ウバ・ウェラッサ女性団体」(略称:UWWO 1984年設立)は、女性農家の当事者組織として、多国籍企業などにより収奪された土地の権利証を求める運動や、農家の健康と安全を目的とした有機農業の推進を行ってきたほか、周辺村に女性グループを設立し、グループ基金とマイクロファイナンスを推進してきました。

しかし、地域の地場産業である特産品のピーナッツ生産においては、農家は仲買人に安く買い叩かれ、常に高利貸しから数十万円規模の借金をしているという構造は、まったく変わっていませんでした。

一方、ACC21は、公益信託アジア・コミュニティ・トラスト(ACT)の事務局として、2005年のインド洋津波被災地復興支援プログラムを10年間担当し、スリランカとインドにおいて、現地の被災女性の組織化と小規模零細規模ビジネスの支援を行ってきました。

sri_photo1.jpg
ドアマットを編むインド洋津波被災者の女性(2010年、南部州ゴール県)


こうした経験から私たちACC21は、「開発の担い手はNGOから当事者である住民組織へと移りつつある」こと、そして「女性たちが社会に主体的に参加できるようになるためには、女性同士が協力して経済力をつけ、地域社会に対して発言していく力が不可欠」と考えました。女性の経済力があがると、自信がつき、周りに対して声をあげられるようになり、家庭においても男性任せではなく、夫や家族と共同で意思決定をするようになります。

ACC21とUWWOの共同事業構想がたち上がる数年前、ACT事業でスリランカを訪問した際に、英語をつかって海外と接点をもつことができない住民組織型の現地団体と海外の助成機関やNGOを結びつける支援を行っていたウパリさんの紹介で、ソーマさんと仲間の女性リーダーに何度か会う機会がありました。

最初にソーマさんにお会いしたとき、彼女は有機栽培で増やした豆類や米の地元種(ローカル・シード)を数種類、小さなビニール袋に小分けしたものを私に見せ、「農薬の過剰投与で健康被害が広がり、有機農業を普及するようになりました。いまは家庭菜園レベルですが、地域に普及して、農産物を販売したいです」と話してくれました。しかしその時、私はもっと話を聴きたいと積極的に働きかけませんでした。農業技術の向上や協同化のプロジェクトは数多くありますが、農業、とりわけ有機農業で利益を持続的に確保するのは非常に難しく、資金源(多くは助成金)がなくなると同時に活動も停止してしまい、目標を達成せずに終わった事例をいくつも見てきたからです。

sri_photo2.jpg
UWWOと17の女性組織のメンバーが栽培している農産物の販売コーナー(2017年、UWWO事務所にて)

ですから2回目に彼女に会ったときに、そのことを率直に話し、問いかけました。

『有機農業を普及し、農産物を売るという取り組みは素晴らしいことだと思います。私たちACC21でも、自然農業普及プロジェクトをインドネシア、インド、フィリピンで行い多くの実践者が誕生しました。でも昔から同じ議論が続いています。"有機農業だから高い値段で売りたい。でも市場やスーパーで売られている野菜の値段よりも高い値段をつけることができない。誰も買ってくれないからね"という人が多いのですが、ソーマさんたちのグループでは、コスト計算をして値段をつけていますか?村では売れなくても、都会なら、海外でなら売れるのでしょうか。投入する資金を上回るリターンが得られる構想はあるのでしょうか。

もしその答えをお持ちでないなら、外部の資金を使って、メンバーの方々に有機農業に転換させるのは非常にリスクが高いと思います。有機農業の普及も、地元種の普及もご自分のリソースでできる範囲で行い、まずは地元周辺で売る努力をされたらいかがでしょうか』


今考えると、女性リーダーとしてスリランカでは有名な年上の先輩に、失礼なことを言ったと思います。しかし私たちも、成功するかどうかわからないプロジェクトに、資金を投じることはできません。眼光鋭くも、柔らかな物腰のソーマさんは、私の言葉を聞いて、考え込んでいました。

公正な取引で適正な収入を得て、環境的にも財政的にも持続可能な農業を実現するには、どうしたらよいか?―それは世界中の農家が抱えている課題です。
私たちのいのちの糧である食べものをつくってくれている農家が食べられなくなり、若者は村を離れて、都市へ、海外へ出稼ぎに行っています。スリランカでも、多くの女性たちが中東などへ出稼ぎに行っています。

ソーマさんたちにも、「有機農産物に付加価値をつけ、女性農家が一体となって共同で市場開拓をしたい」という"夢"がありました。しかしUWWOは土地問題や権利に関する提言活動が中心で、農業・農村開発が中心の団体ではありませんでした。

ウパリさんが興味深い話をしてくれました。

『経済面での問題解決が優先と言って、生計開発、収入向上事業から入る団体(NGO)が多いけど、長年同じ場所で活動しているうちに、"ところで、地域の問題は解決しているのだろうか"と振り返ると、何も解決していないことに気付く。コミュニティの問題は、経済だけでなく、教育、福祉、土地、ジェンダー、民族間差別など多岐にわたり、サービスや制度、政策上の課題などと絡み複雑で多面的だから、特定分野(生計開発、収入向上など)に取り組むだけでは地域の問題は解決できない。そこで、住民が自らの権利と義務を認識し、適切な人物を選び(選挙)、為政者やサービス提供者を住民が集団の力でモニターし、住民が求めることを発信する力をつけるために、住民組織のマネジメントや提言力強化や、他のアクターやステークホルダーと連携すること(ネットワーキング)を活動の柱に加えていく団体(NGO)が多い。

でもUWWOの場合は逆パターンだね。彼女たちは、土地の権利問題から始まって、提言活動、人権活動には最初から力を入れていたし、海外のドナーから多額の助成を受けたことがなくても、女性組織は18に増え、マイクロファイナンスもやっている。でも、仲買人や高利貸しに依存し支配される農家の現状は変わっていない。彼女たちは、大学出のエリートでも、有名な政治家の娘でもない、スリランカの大半の女性たちの声を代弁している。女性の権利向上を求めて、プラカードをもってデモをするとか、政府や国際機関に呼ばれて、現場の声を届けることは積極的にやっているよ。でもそれで村の女性たちの状況は変わっただろうか。これでは頭打ちだとソーマたちは気づいたんだよ

この言葉は、私にとっても大きな気づきとなりました。どちらかというと、私自身の考え方も、また多くの団体でも、ウパリさんが話した"前者"のパターンをたどっていると思いました。でもソーマさんたちはその逆だというのです。ソーマさんたちの足跡と彼女たちが描く将来像に興味が湧いてきました―「女性たちが、自分たちで立ち上がって、30年以上も活動を続けているって、すごくない?」

しばらくたち、スリランカを再訪する準備を進めていたときに、「アイデアが固まったので、ソーマがもういちど話を聞いてほしいと言っている。ウェラワヤに行ってみないか?」とウパリさんから連絡が来ました。

折しも、2015 年 8 月末に UN Women の日本事務所が開所され、日本では同時期に「女性活躍推進法」が成立しました。ACC21では、2016年度内に自主事業として女性支援事業をたちあげよう、という話が進んでいました。ジェンダー・バランスがとれた社会にするためには、女性の経済力向上だけにとらわれず、従来の価値観を見直すプロセスを経て、家庭レベルで(男性そして女性自身の)意識改革、意識の高い人材の育成(子ども、若者の教育)、女性による行動を喚起し、社会で影響力のあるグループ、組織、ネットワークを設立・強化する支援を行いたいと、プロジェクト案の企画とパートナー探しを始めていました。

ソーマさんたちの活動がスリランカ内外で高い評価を受けている理由、そして彼女の仲間である女性農家の方々が30年以上どのような活動を行ってこられたのか興味もあり、2016年の夏に、ウェラワヤに行くことになりました。

sri_photo3.jpg
「国際女性の日賞」の受賞トロフィーをもつUWWO代表のソーマさん(後列左から2番目)と理事、スタッフ(2016年)

(その1おわり その2へつづく