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2020年6月17日    

女性農家を起業家に! スリランカ事業成果報告 その2
~クジャクの楽園の陰で~


2017年4月に始まったACC21と現地NGO「ウバ・ウェラッサ女性団体」(略称:UWWO)の共同プロジェクトは、18の女性組織のメンバー780人が、村の特産品であるピーナッツや有機農産物に付加価値をつけて新たな市場を開拓し、農業で十分な収入を得られるようにするとともに、長年変えられなかった商慣行を打ち破り、当事者が自分たちの手で新しい地場産業を実現するという画期的なチャレンジです。

3年計画の最終年度を終えたいま、数回に分けて、このプロジェクトを振り返っていきます。その1(草の根女性リーダーたちとの出会い)では、プロジェクトの開始からさかのぼること数年前、「有機農業を地域に普及して、農産物を販売したい」というUWWO理事長のソーマさんのアイデアを聞いても消極的だった鈴木が、どのようにして興味をもつに至ったかをご紹介しました。
(報告:事務局長、事業担当 鈴木真里)


クジャクで有名なモナラガラ県
ソーマさんたちの活動がスリランカ内外で高い評価を受けている理由、女性農家の方々が30年以上どのような活動を行ってこられたのかを探るため、2016年の夏にウバ州モナラガラ県のウェラワヤを訪れました。

ウバといえば「ウバ茶」。世界三大銘茶のひとつであるセイロンティー(セイロンは、イギリス植民地時代の名称)のなかでも、標高がもっとも高い土地で栽培され、渋みとさわやかな香りが特徴です。

北海道よりも小さな国土とはいえ、コロンボからモナラガラ県までは、車で7時間近くかかります。同県はスリランカで2番目に大きく、セイロンゾウなど多くの野生動物が生息しています。

到着した翌朝、鳥のさえずりで目覚めました。青々とした緑に輝く朝日に目を細め、ハチドリからタカまで、大小さまざまな鳥が飛び交い、おしゃべりしている光景に目を奪われていると、突然、「アオゥー、アオゥー!!」という(若干)違和感のある鳴き声が響き渡りました。この鳥こそ、県名の由来である「クジャク」(孔雀)です。「モナラガラ=孔雀が下りた岩(モナラ=クジャク)」、という名のとおり、いたるところでクジャクが闊歩し、オスは大きく美しい羽根を広げてメス(たまに車にも)にアピールします。同県内には、12の手と6つの頭をもつヒンズー教の軍神「カタラガマ」が地名になっている場所があり、ヒンズー教徒や仏教徒が国内外から巡礼に訪れる寺院があります。このカタラガマが乗っている動物がクジャクです。

このように現地では大事にされているクジャクですが、特産品であるピーナッツを食べてしまうので、農家は頭を抱えています。もうひとつの悩みは、夜になると畑を踏み荒らすゾウです。一見豊かに見える自然でも、人間が野生生物の生息域に侵食したために、動物の居場所と食べ物がなくなり、動物と人間との争いに発展しています。

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家の屋根にたたずむクジャク。ピーナッツを食べてしまうので農家の悩みの種でもある


ここウェラワヤ地域の住民の大半は、政府の移住政策によって3世代前から移り住み、開墾してきました。ところが、1980年代に多国籍企業によるサトウキビの栽培用の土地買収を発端に、その後、バナナやサトウキビの大規模プランテーション、加工場が次々と建設され(1990年代後半~)、農民や野生動物たちの生活が脅かされるようになりました。季節ごとに野菜、豆、香辛料、果物などの作物を育て、わずかな収入を得てきた人々は、住んでいた土地を追われたり、単一作物の栽培に転換して気候変動のリスクにさらされたり、農薬や化学肥料の使用で深刻な健康被害が発生するなど、さまざまな問題に直面しています。細々と農業を営むか、日雇い労働者になるしか選択がなくなってしまった人々は、県の貧困ライン(1日約90円)以下の生活を余儀なくされ、実に住民の7割近くが生活保護を受けるようになってしまいました

UWWOは、土地問題に反対する住民運動が起きたことを契機に1984年に設立されました。土地なし女性農家の権利をうったえる集会、選挙監視を行うための住民トレーニング、選挙立候補者に村のニーズを伝える意見交換集会と署名活動、家庭内暴力や少女への虐待に反対するキャンペーン活動などに力を入れてきました。そして近年は、農薬使用による農民の健康被害が拡大したのを機に、有機農業技術の普及(写真参照)に着手し、政府による種登録義務化に反対するデモなどのほか、女性組織の零細規模貯蓄・融資活動にも力を入れていました。

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UWWOが推進していた有機農業での家庭菜園活動。これをビジネスとして広げたいと女性組織リーダーたちは考えていた
(UWWO事務所にて、2017年2月)

2016年7月の第1回会合では、18女性組織(メンバー総数約780人)のうち11組織のリーダー21人が集まり、前述の土地問題から子どもや家庭の問題など幅広い問題を率直に話してくださいました。

問題その1: まとまった資金が必要な農業ビジネスに投資できない

マイクロファイナンス機関やリース会社などの金融業者が参入していますが、年利が30%と高いうえ、毎週返済しなければならないため、他から借りて別の機関に返済する多重債務者が増えています。とくにピーナッツ栽培は年2回のシーズンにまとまった資金を要するため、高利貸しから借りざるを得ない人が多いそうです。

「女性組織ではマイクロファイナンス(零細規模貯蓄・融資)を行っており、30~100万ルピー(約17.5~58万円)規模のグループ基金がありますが、メンバー全員のビジネスへ投資資金として融資できる規模ではありません。メンバーでない他の女性たちも借金苦から解放してあげたい。

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毎月開催される女性組織の会合
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メンバーの貯金だけでグループ基金を100万ルピー(約58万円)近くに蓄積している女性組織もあった(2017年2月)

問題その2: 作物被害と健康障害

1985年頃にサトウキビやマンゴーの加工工場を経営する企業が土地の開墾を始めてから、野生のゾウが家屋や畑を荒らし始め、農民は夜中に畑の見張りをしなければなりません。ある女性は「夫は体が弱くて私が農作業を一手に引き受けています。子どももまだ小さくてとても大変です」と涙ながらに語りました。農薬、化学肥料を使用している影響か、健康障害(とくに肝臓)がある男性が増えており、わかっているだけで30人はいるとのことでした。このように、女性が生計活動の担い手にもなっている家庭も多くあります。

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ピーナッツを収穫する女性組織のメンバー。男性と同じように肉体労働をし、家事も育児もこなしている

問題その3: 夫婦、家庭の問題
女性組織に参加すると、メンバーの家庭の事情が分かってきて、問題を共有するようになります。深刻な問題を抱えているメンバーがいたら、介入することもあります。あるメンバーが夫から暴力を受けていたことがわかったので、他のメンバーたちが夫と話し合い、今ではベストカップルになりました」
―DV(家庭内暴力)はなぜ起きると思いますか?と聞いてみました。
「妻は夫にどんなにつらく当たられても料理をし、家族の世話をします。家族を十分養うことができないという無力感やプレッシャーを感じ、全員自分に反対していると思い込み、現実逃避したいという気持ちからアルコールに溺れる男性が多いです。お酒を飲めば子どもも妻も話しかけてこない。朝、妻が"昨日、この仕事やらなかったでしょ"と言おうものなら、次の日はもっと飲んで暴力を振るう。夫同士は「お前のカミさん、よく喋るよな。うちのは口答えしないぞ」などと言い、意見をはっきり言う女性は周りから疎まれます。

その一方で、「女性に高等教育は必要ない」と言いながら、自分の娘の教育には熱心な男性が増えているという矛盾もあるようです。

女性組織が増えてから身体的暴力は減っているけれども、精神的な虐待のケースはまだあるといいます。経済的な問題が残っているのも一因だと女性リーダーたちは分析していました

問題その4: 進まない女性のエンパワメント

15~16歳で結婚するケース(違法)が増えているという話が出ました。その要因として、女性たちは、放課後の塾での出会いと恋愛が増えている、両親が出稼ぎに出ていて子どもに十分な愛情を注げない、メディアの影響などを挙げていました。そのとき、ソーマさんが厳しい表情で言いました。

「"女性のエンパワメント"のためだと言って、多くの政治家たちが外部から資金を得ていますが、地元の女性たちにはわずかしか回ってきません。私が州の会合に参加した時に、村の女性たちがどれほど苦しんでいるかについて発言したら、ある役人から"スリランカでは政治家の30%を女性から選出できるようになっているんだから、文句ばかり言うな。お前のような女の存在が邪魔なんだよ"と言われました。外に対しては自分たちの問題は明らかにせず、黙っています。女性は男性の下に置かれ、家庭で女性が意見を言えば、離婚されてしまうのです。」

彼女たちが話してくれたことは、日本でも起きてきた、そして起きていることです。この根深く難しい問題に、辛抱強く立ち向かってきた女性たちの、あきらめない強さを感じながら、私はUWWOが掲げているビジョン、ミッション(当時)を読み直しました。このビジョンは、"絵に描いた餅"ではない。そしてこのミッションは、今まさにこの女性たちが実践しているのだと思いました。

【UWWOのビジョン】
女性たちが社会的、政治的、経済的にエンパワーされ、あらゆる形態の差別から解放され、平等な権利を享受し、尊厳と繁栄を持ちながら生活する開放的で公正な社会。

【UWWOのミッション】
女性たちが社会的政治的にエンパワーされ、あらゆる形態の差別から解放された、フェアで公正な社会を創出するため、女性のムーブメントを起こす活動に心底からコミットする。
(その2おわり)
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オープンに話してくれた女性組織のリーダーたち。長年の付き合いで強い信頼関係が培われていることを感じた