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2020年12月3日  

アジアの現場から"学ぶ旅"シリーズ#1
『マニラの路上の若者と語ろう! ~コロナ禍のフィリピンからライブ配信~』
イベントレポート


11月には全世界での感染者数が6,000万人を超えた新型コロナウイルス感染症。日本でも感染が広がり、人々の生活様式や経済にも大きな影響を与えています。一方、アジアの国々でも感染拡大やそれに伴う都市封鎖(ロックダウン)の影響で、とくに貧困層の人々の生活はさらに困窮しています。

マニラの路上で暮らす子ども・若者(ストリートチルドレン、ストリートユース)のリアルな生活のようすや彼らの自立を支えるために実施しているプロジェクトについて、現地の若者たちとの対話を通じて知り、考えることを目的としたオンライン・イベントを開催しました。

この記事は、2020年10月23日にオンラインで開催された、アジアの現場から"学ぶ旅"シリーズの第1回『マニラの路上の若者と語ろう! ~コロナ禍のフィリピンからライブ配信~』のレポートです。

■いまだ多くのストリートチルドレンが暮らすフィリピン

フィリピンの首都マニラは、高層ビルの立ち並ぶ大都会である一方で、多くの人々が極度の貧困の中で暮らしています。路上で暮らす子どもや若者("ストリートチルドレン")も多く、その数はフィリピンの主要都市の子ども・若者人口の1~3%といわれています。子どもが路上で働いたり、暮らしているという状況は、子どもの権利が侵害されていることを意味します。

ACC21のパートナー団体「チャイルドホープ・フィリピン財団」(以下、チャイルドホープ)によれば、子どもたちが路上に連れてこられる主な要因は5つあります。
・貧困と大家族
・失業や不完全雇用(過少雇用)
・基本的な社会サービスへの限られたアクセス
・家庭の崩壊
・伝統的な価値観から消費・物質至上主義への転換
多くの場合、直接的なきっかけは、家庭内の身体的・性的虐待です。

家庭の問題や飢え、ネグレクト、家庭内暴力を経験すると、子どもたちは家を出て、数時間から時には1日中路上で過ごすようになります。子どもたちの約75%は、路上で働いたり物乞いをした後に、家族のもとに毎日戻っていきますが、中には、親に見捨てられた子どもたちもいます。

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路上で寝泊まりする子ども


路上にいる子どもたちは、非常に過酷で危険な状況にさらされ、飢え、寒さ、病気、虐待、搾取に苦しんでいます。特に、こうした子どもの約3割を占めるともいわれる少女は、栄養不足や性的虐待、搾取を受けるなど、最も弱い立場にあります。大半のストリートチルドレンが児童労働をし、路上で暮らしながら、物売りや洗車、ゴミ漁り、お菓子売り、物乞い、買春への関与、小さな窃盗などをしています。少年たちもまた、頻繁に性的虐待の被害に遭っています。こうした子どもたちは、法に抵触しているとして、しばしば当局と衝突しています。

■路上の若者たちの自立のために

このように、ストリートチルドレンは幼い年齢で人生の過酷な現実に直面し、さまざまな虐待や搾取の被害者となっています。ACC21の現地パートナー団体・チャイルドホープは、絶望の中にいる子どもたちに学ぶ場を提供し、路上から抜け出すことができるように、30年以上にわたり活動しています。

ACC21はフィリピンの社会の最底辺での暮らしを余儀なくされているストリートチルドレンの自立を支援したいと考え、約5年前からチャイルドホープとの連携の可能性を探り始め、2018年夏から、協働で「路上で暮らす若者の自立支援プロジェクト」をスタートしました。

このプロジェクトでは、若者たちが安定した収入を得て、社会の有為な一員になれるように、職業技術やライフスキルなどを学ぶ場を提供しています。

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幼いころから路上で暮らしてきた若者たちに、職業の技術だけを教えても自立に導くことは難しいため、自立するうえで大事な心構えやお金のため方・使い方、そして具体的な履歴書の書き方や面接の指導、就職に必要な証明書の取得サポートまで、総合的に支援しています。また、カウンセリングや貯蓄の奨励も行っています。

2018年7月から2020年8月までの間に、49人の若者がこのプロジェクトを修了し、うち27人が就職や自営で仕事をスタートしました。また、27人が、国家資格Ⅱ類(フィリピンの政府機関が公的に認めた職業能力基準のひとつ)を取得しました。

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2019年7~12月にプロジェクトに参加した若者たち(2020年2月に開催された修了式にて)

■自立をめざす若者たちに影を落としたコロナ禍

イベント当日、フィリピン側では5人の若者たちが日本の参加者との対話のために集まってくれました。皆、幼いころに路上での生活を体験し、「路上で暮らす若者の自立支援プロジェクト」を修了した若者たちです。


左からロマーンさん、事業担当者のアラン氏、アーノルドさん、ジョシュアさん、エマニュエルさん、パトリシアさん

プロジェクト後、それぞれに就職をしたり、自営で仕事をはじめたり自立に向けて動き出していたところ、2020年3月中旬に、新型コロナウイルス感染拡大抑制のため、強い外出・移動制限("ロックダウン")が課されることになりました。特に5月末までの2か月間は規制が厳しく、操業停止などによって仕事ができなかったうえに、路上での販売活動や物乞いも取り締まりの対象となりました。

現在も、彼らが生活するマニラでは、日本よりも厳しい外出・移動制限が課されています。当日も、イベントに参加するために、検問所のようなところで許可を取り、住んでいるバランガイ(フィリピンの最小の自治単位)から移動してきました。

日本側の参加者約20人から、フィリピンの若者たちに、率直な質問を投げかけてもらいました。

■若者たちとの対話から―


路上で暮らしてきて一番大変だったことは何ですか?

アーノルドさん:
空腹のまま何日も過ごさなければいけないのが非常につらかったです。
台風など自然災害のときは特に大変です。自分が身を寄せるシェルターもなく、台風が過ぎ去るのをただ待つしかありませんでした。
また、子どもや若者を保護し、支援するのは自治体や社会開発福祉省の仕事ですが、『路上で暮らす子どもたちを保護する』と言いながら、半ば拘束するような形で捕らえ、シェルターとは名ばかりの、牢獄のような狭い空間に押し込められるという状況があります。

将来、皆さんのような弱い立場にいる子どもたちを支援する仕事につきたいと思っています。支援する団体に期待することはありますか?

アーノルドさん:
チャイルドホープが提供してくれているような、トレーニングや技術研修、路上教育が必要で、また今のようなときは特に、緊急時の無料の食料配布などが助かっています。チャイルドホープの路上教育に参加して一番良かったことは、何が正しく、何が悪いことなのかを学ぶことができたことです。
また、レストランなどで食事を提供する仕事につきたかったので、「路上で暮らす若者の自立支援プロジェクト」で、飲食サービスの職業技術トレーニングに参加できたことが役に立ちました。トレーニング後には習ったことを実際の職場で実践し(計300時間の職業体験(OJT))、その後、OJT先のホテル・レストランの系列店に就職することができました。


ホテル・レストランで働くアーノルドさん(右端)

《アーノルドさんプロフィール》
Arnold.jpg10歳の時に無職の父親が違法薬物の中毒となり、14歳の時に家計を支えていた母親を亡くす。それ以来、学校をやめ、路上の非行少年グループに加わり、喫煙、飲酒、違法薬物の使用・売買に手を染める。それらに依存し、刑務所にも何度も収監された。その後、チャイルドホープのことを知り、悪い習慣をやめ、まっとうな人生を送ろうと決意する。2019年1月から「路上で暮らす若者の自立支援プロジェクト」に参加、「飲食サービス」コースを修了。その後実地訓練(OJT)の受入先のホテル・レストランの従業員となる。現在は、部屋を借りて兄弟助け合いながら暮らし、再び家族が揃って暮らせるよう少しずつ貯金をしている。
「路上で暮らす若者の自立支援プロジェクト」に参加しているとき、トレーニングを続けるうえでどのような困難がありましたか?

ロマーンさん:
自分に自信がもてず、「私はトレーニングをやり遂げることができるだろうか?」と疑いを持ってしまいました。それでも、チャイルドホープのスタッフ(路上教育者)がいつも励ましてくれたおかげで、トレーニングに参加し続け、プロジェクトを修了することができました。

《ロマーンさんプロフィール》
Roman.jpg6歳のときに両親が刑務所に収監され、チャイルドホープの路上教育に参加し始める。後見人となった叔父の元で学校に通うが、貧困のため小学5年生で退学。12歳のころから土産物屋で働き始めるが、次第に喫煙、飲酒、薬物などの非行に走り、やがて薬物の売買や運び屋にも手を染めるようになった。17歳の時に薬物と銃器保持で逮捕され、1年3か月間刑務所で服役。叔父とチャイルドホープの力添えで出所した後は心を入れ替える。2019年1月より「路上で暮らす若者の自立支援プロジェクト」に参加し、「マッサージ療法」を修了。マッサージ療法士として働くが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、現在は新しい仕事を探している。
今、コロナ禍で一番必要としていることはなんですか?
ロマーンさんとアーノルドさん:
政府・自治体や、チャイルドホープなどの団体から緊急支援物資が配布されていますが、残念ながら十分ではありません。例えば、9人家族であっても、配られる支援物資は5人分しかありません。また、店や会社が操業を停止しているため仕事がなく、収入源がありません。ほかに、感染を予防するための衛生用品も必要です。

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■コロナ禍での事業運営上の努力と課題

対話の中では、日本の参加者から、チャイルドホープ事務局長のカルピオ医師への質問も寄せられました。

コロナ禍で事業を行うにあたってどのような課題がありますか?どのような改善策に取り組んでいますか?

カルピオ医師:
ロックダウンによって、「路上で暮らす若者たちの自立支援プロジェクト」は、3月中旬から5月末まで活動を停止しました。6月からは制限が緩和されたため、トレーニングなどの活動を再開しました。コロナ禍でも家族を食べさせられるように、今、若者たちに必要なのは、少しでも職業技術を磨き、稼げる機会を増やしていくことです。このため、困難な中でも活動を続け、対面での面談や研修も再開しています。チャイルドホープでは、医師である私と妻が責任をもって感染予防対策に取り組んでいます。

現在は雇用環境が厳しく、就職機会が非常に限られているため、自営業などを念頭においた生計技術トレーニングの内容を充実させて、実践的な生計技術を身に着けられるようなトレーニングを実施しています。
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コロナ禍で行われた生計技術トレーニングのようす

フィリピンでは新型コロナウイルスの感染拡大が深刻であると聞いており、心配しています。特に、スラムなどの密集地域ではクラスター感染が起きやすいといわれていますが、PCR検査の体制や診療体制はどうなっていますか。

カルピオ医師:
フィリピンの感染者数は世界20位前後(イベント開催当時。11月27日現在は27位)で、東南アジアではインドネシアに次いで2位となっています。感染者数の急増のカーブは緩やかになっているものの、いまだに感染者数は多い状況です。
感染拡大抑制の観点では、一般の人々に、正しい情報提供を行うことが重要だと考えています。このため、チャイルドホープでは栄養補助食品、マスク、フェイスシールドなどを配布するほかに、オンラインなどを通じた情報提供にも取り組んでいます。また、政府に対して、『新型コロナウイルスの大流行を潜り抜けるために共に取り組んでいこう』という提言も行っています。

検査体制については、マニラ首都圏では無料のPCR検査が受けられるということになっていますが、自治体の予算が限られているため、全ての人が受けられる状態ではありません。
診療体制に関しては、現在病院が大変混雑しており、仮にコロナが疑われたとしても病院にかかることは容易ではありません。また私立病院にかかることは経済的に難しい人が多いです。
このため、残念ながら、感染がさらに拡大していくリスクがあると思います。

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チャイルドホープ事務局長・カルピオ医師


■フィリピンの若者たちから日本の参加者へ―

どうしてこのツアーに参加しましたか?(アーノルドさん) Mさん:
フィリピン人の先生に英語を習っているので、フィリピンのことをもっと知りたいと思って参加しました。

Oさん:
大学の教員をしており、2年に1度のフィールドワークを通じて、フィリピンの子どもや学生と交流があります。今年はコロナ禍で訪問が難しいため、オンラインを通じてどのように現地の皆さんと交流ができるのか体験してみたいと思い、参加しました。

若者が将来成功するために大切なことは何だと思いますか?(ロマーンさん)

Nさん:
『自分にとっての幸せは何かを明らかにすること』だと思います。
普通は家をもつのが幸せ、お金があれば幸せといった一般の価値観に振り回されることなく、自分の価値観を大切にするということです。例えば私は「大好きな仕事をする」「大好きな音楽を聴く」「大好きな人と暮らす」ことが幸せです。自分にとって大切なことを自覚して、それを大事にしながら生きていくことが大切だと思います。
ロマーンさんにとって、人生で一番大切なことは何ですか?

ロマーンさん:
一つ目は、神様とともにいること。特に今のような難しい時には非常に大事だとおもいます。二つ目は家族、三つめは自分を愛するということです。

日本にも路上で暮らす子どもや若者はいますか?(エマニュエルさん)

Yさん:
日本には路上で暮らす子どもはほとんどいませんが、20~30代以上の大人が失業などで家を失い、公園で暮らす事例が増えています。一方、家があっても虐待を受けていたり、ネグレクトにつながっている子どもたちもいます。

Nさん:
日本でも最近、十代の子ども・若者が親の虐待などから逃げて路上で過ごし、日によって泊まるところを転々とし、性的搾取などのリスクが高いことがわかってきました。

《エマニュエルさんプロフィール》
emanuel.JPG継母からの虐待から逃れるため、9歳から路上で暮らし始める。路上生活の初めの3年間は、物乞い、ゴミ漁り、客引きなどで食いつなぎ、時に万引きを犯したこともあったという。その後、チャイルドホープと出会い、路上教育に参加するようになる。2018年夏に「路上で暮らす若者の自立支援プロジェクト」に参加し、同プロジェクトを通じてマニラ市人材開発センターの「飲食サービス」、「マッサージ療法」、「理髪」を修了。レストランでウェイターとして働いていたがコロナ禍で失職。幸いスーパーマーケットの仕入れ担当の職を得たほか、マッサージ療法や理髪のスキルを活用して副収入を得ている。

日本の若者の皆さんは、毎日どのように過ごしていますか?(パトリシアさん)

Dさん:
私は21歳で、大学3年生です。コロナ禍でオンライン授業が続いているため、家から出る機会がなく、朝から晩までずっとパソコンに一人で向かい授業を受けています。アルバイトがあれば電車に乗って出かけることもありますが、友達にはなかなか会えず、孤独を感じています。ただ、ごはんは食べられているし、病気になったら病院に行くことができます。

《パトリシアさんプロフィール》
Patricia.jpg地方出身で、6人きょうだいの長女。2012年からマニラで家族とともに暮らす。路上で知り合ったパートナーとの間に3歳の息子がおり、第2子を今年9月に出産。
2019年夏の「路上で暮らす若者の自立支援プロジェクト」に参加し、「飲食サービス」コースを修了。プロジェクトと並行して、自宅(スラムの1室)で軽食の調理をし、街路で販売をはじめる。その後、チャイルドホープの「小規模ビジネス開発・開始支援金」(貸付)を利用し、サリサリストア(小さな雑貨店)を開始。借り受けた資金(5,000ペソ:約11,000円)を完済した。

フィリピンの僕たち若者にメッセージはありますか?(ジョシュアさん) Nさん:
私は、高校生の頃から発展途上国に興味を持ち、貧困で苦しむ子どもたちを支援したいという思いを持ち続けてきました。大学では国際協力を専攻し、今は社会人5年目です。今年はネパールで村の子どもたちの教育に携わる予定でしたが、コロナ禍で渡航できなくなりました。貧困に苦しむ子どもたちを助けたいという気持ちはとても強いのですが、現地で何かをすることができず、『自分の思うことが実現できていない』という歯がゆい気持ちです。今日は、フィリピンの皆さんと話す機会がもてると知って、とても心待ちにしていました。コロナで大変な状況が続きますが、どうか自分の体と心、そして大切な人の心と体を守って、一緒に頑張りましょう。

Oさん:
私は定期的にフィリピンの貧困地域に日本の学生を連れて行っています。皆さんのようなフィリピンの若者と会うと、日本の若者たちはとても感銘を受けます。日本の若者がもっていないようなパワーを皆さんは持っていると思います。ぜひこの今の困難を乗り越えていってほしいです。

Sさん:
トレーニングに参加するのが辛い時でも、チャイルドホープのスタッフに支えられて参加を継続することができたという話を聞いて、とても励まされました。コロナの中でも気を付けてがんばってください。

《ジョシュアさんプロフィール》
joshua.jpg父親の再婚後、継母からの虐待により家庭が崩壊。その後父は失業をきっかけに継母と離婚し、父子で路上生活を始める。12歳のときにチャイルドホープと出会い、活動に参加するようになった。2018年夏、チャイルドホープの路上教育者に誘われ、「路上で暮らす若者の自立支援プロジェクト」に参加。同プロジェクトを通じてマニラ市人材開発センターの「飲食サービス」コースを修了、レストラン・バーでの実地訓練(OJT)に参加。その後OJT先のレストラン・バーに就職し、現在も勤務を続ける。安定した給与が得られるようになったため、路上から抜け出し部屋を借りて住んでいる。

■最後に

今回のツアーは、「アジアの現場から"学ぶ旅"シリーズ」として、今後も国やテーマを変えながら、継続的に行っていく計画です。このオンラインツアー・シリーズを計画した背景には、ACC21が豊富に持つアジア各国のNGOとのネットワークがあります。私たちACC21のスタッフが蓄積してきた経験や知見を自分たちだけにとどめることなく、様々な方々と共有し、今後のアジアのために生かしていきたいと思います。

今回参加してくださった日本の皆さま、そしてフィリピンから参加してくれたチャイルドホープのスタッフと路上の若者たちに心より御礼を申し上げます。