緊急レポート『ストリートチルドレンのための国際デー記念フォーラム2024~立ち上がるフィリピンの元ストリートチルドレンたち~』
現在、アジア・コミュニティ・センター21(ACC21)とアジア宗教者平和会議東京(ACRP 東京)は、フィリピンのストリートチルドレンをZEROにするためのキャンペーンの一環として、クラウドファンディングに取り組んでいます(期間:2024年4月12日~5月31日、詳細:https://acc21.org/sczero2024/)
「ストリートチルドレンのための国際デー」の翌日となる2024年4月13日には、子ども時代に墓地での生活を経験したケイ・アン・イグレさんと路上での生活を経験したジュード・ナディビダッドさんを迎えてオンライン・フォーラムを開催しました。
◆「苦労した人生を通じて多くを学んだ」-ケイ・アン・イグレさん
一人目のゲスト、ケイ・アン・イグレさんのスピーチをご紹介します。
私は、フィリピンのマニラ出身のケイ・アン・イグレです。私は5人きょうだいの一番上で、現在二人の子どもがいるシングルマザーです。
私は1995年に墓地で生活する両親の間に生まれ、成人するまで墓地で育ちました。家庭が貧しかったため、3歳の時に路上で物乞いをすることを覚え、5歳の時には教会、市場や店でサンパギータ(花輪)を売り始めました。当時、他の子どもたちが親に欲しいものを買ってもらったり、家族で出かけているのを見て羨ましく思っていましたが、同時に、貧しい家庭に生まれた私は、両親の力を借りずに自分の力で生き、家族を支えられていると誇らしくもありました。
私は、チャイルドホープ(ストリートチルドレン支援に取り組む現地NGO)からの支援や、サンパギータを買ってくれた方々のおかげで、奨学金を受けて学校に通い、大学に進学することができました。
母には仕事がなく、父は市場で働いていましたが十分な収入はなかったので、私は毎朝毎晩サンパギータを売って家族を支えてきました。中学3年生から大学を卒業するまでチャイルドホープから奨学金をもらいましたが、お金がなくて学校に行けない日や、食べ物を十分に買うことができない日もありました。家には電気が通っていないため暗く、キャンドルの明かりで勉強することはとても大変でした。家にはドアがなく、屋根はビニールシートで、私たち家族は墓地の中で寝ていました。
私はこれまで苦労してきた人生を通して多くのことを学んできました。自分の足で立ち上がる力、夢を持つこと、何かを手に入れたければ必死に努力しなければならないこと、今自分が持っているものを愛することなどです。
現在は、政府機関の契約職員として働いていますが、給与の振り込みが遅れることがあるため、食べ物を売り、子どもたちのために使えるお金を補っています。また、現在でも両親や家族を支え続けています。きょうだいの中で大学を卒業したのは私だけで、父は他界してしまったので、私以外に家族を支えられる人はいません。大学を出て就職してから数年間はアパートを借りて住んでいましたが、家族の家賃、電気代、水道代などをすべて給与で賄うことは難しいので、政府の契約職員でありながら今は再び墓地で暮らしています。
いつかは、自分のビジネスで稼ぎ、貯金をして、家族や子どものために家を持ちたいです。また、小さいころの私のように「学校に行きたい」と考えている貧しい子どもたちを助けたいです。チャイルドホープが私を救ってくれたように、私も子どもたちが教育を受けられるようにサポートし、空腹で苦しんでいる人がいたら食べ物を分け与えたいのです。
フィリピンのストリートチルドレンをなくすために私が貢献できることは、チャイルドホープが行っているような支援活動に参加し、夢を持つことや、夢を叶えることの素晴らしさ、夢を実現するためには勉強が必要であることなどを教えることだと考えています。教育を受けると良い仕事に就くことができ、お金を貯めて新しいビジネスを始めることができるようになります。そういった教育の素晴らしさを伝えることが、子どもたちを路上から救うきっかけになるかもしれません。
私が日本の皆さんに、「フィリピンのストリートチルドレンZERO」を達成するためにしてほしいことは、ストリートチルドレンの問題に取り組む団体の教育支援などのプロジェクトを支援することです。
◆「今日の若者は明日のリーダー」-ジュード・ナディビダッドさん
続いて、2人目のゲスト、ジュード・ナティビダッドさんからのスピーチをご紹介します。
2003年、私がまだ5~6歳の頃に、暮らしていた家が取り壊され、家族は強制的に追い出されました。その頃、私たちきょうだいは病気がちで、父は精神疾患と診断されていました。家が取り壊された後は路上での暮らしを余儀なくされました。時には、地域の保育所の地下にある場所で暮らしていた時期もありました。そこは、埃っぽく、沢山の人が叫んだり、言い争いをしたり、走り回ったりしているような環境でした。その頃、チャイルドホープと出会い、路上教育活動に参加し始めました。
2005年、父が路上生活をしている女性と出会い、家族を置いて出ていきました。母は地域清掃員をしたり、ごみを拾って売ることで収入を得て私たちを育てていました。私は駐車場での車の誘導や、通行人のためにタクシーを呼ぶなどをして小銭を稼ぐ方法を学びました。物乞いをしたり、ごみ箱の中から食べものを探したりすることもありました。学校での勉強を続けることはできず、小学5年生で学校に行くのを辞めました。当時は、私からすべてが奪われたように感じて悲しかったです。
チャイルドホープの活動に参加し続ける中で、学校に再び通う機会を得ることができました。しかし中学1年生のときには、兄が中学を卒業できるよう、再び学校をやめて働き、母を金銭的にサポートしました。
その後、チャイルドホープからの後押しを受けて、再び学校に通い始めました。その頃、家を出た父とそのパートナーが学校の外にある小屋に住んでいたため、毎日のように二人を見かけました。父は精神疾患を患っていたので、私の名前を学校の外で叫ぶこともあり、恥ずかしい思いをしました。それでも、父と話をし、時には勉強のためにチャイルドホープから受け取っていたお金の一部を父に渡し、持病の薬を購入できるように支えました。その後、チャイルドホープの支援のおかげで、私は大学に進学することができました。
2016年、父が政府機関に保護されて、路上で暮らす高齢者が生活する施設に収容されました。私は父に「大学を卒業したら迎えに来るから、一緒に暮らそう」と約束し、時には施設に食べ物を届けました。
しかし2017年1月、突然「父が他界した」との知らせを受けました。私は膝から崩れ落ちそうになりました。その頃あまり父に会いに施設に行けていなかったので、非常に悲しい思いをしました。当時私にはお金も仕事もなく、できる事は何もありませんでした。父は棺も用意されないまま埋葬されました。私は自分が目の当たりにしたことを受け入れられず、心が痛みました。自分が他界した後の運命はわからないのだから生きている間に良いことをしなければならないと思いました。
2018年、私はバランガイ(フィリピンの最小行政単位)の青年評議委員会(SK:Sangguniang Kabataan)の委員長に立候補し、当選しバランガイのの若者たちをまとめる機会を得ました。同じ年には、マニラ市議会議員の若者支援活動のアシスタントとして読み聞かせプログラムのリーダーも務めました。1年ほど経って、「大学を卒業していないのに他の若者たちの良い例になれるのだろうか」と悩み始めました。父と交わした約束を思い出し、家族のために大学を卒業したいと考えました。また、チャイルドホープにも、私のようなストリートチルドレンに大学を卒業させるという目標を諦めないでほしいと思いました。2019年、勇気を出して再び大学に通い始め、2022年に経営教育学の学位を取得しました。
現在私はチャイルドホープに所属し、ACC21とチャイルドホープの協働事業「Project Bamboo:路上で暮らす若者の自立支援プロジェクト」などを担当しています。私は、両団体の活動に貢献することを約束します。自分がこれまで経験してきたことや今の自分の姿、達成してきたことが、この活動で活かせると信じています。
日本の若い人たちには、フィリピンの若者と力を合わせて、チャイルドホープやACC21のようなNGOを支援することで、ストリートチルドレンをゼロにするための活動を一緒に達成してほしいと思います。教育のための募金活動や食料支援、そしてProject Bambooのような事業への参加を通してフィリピンのストリートチルドレンの生活を支えてほしいです。私は、今日の若者は明日のリーダーであると信じています。
◆元ストリートチルドレンの視点から見る状況の変化、路上から抜け出すために必要なこと
お二人のスピーチの後、ACC21職員の辻本が司会役となり、質疑応答の時間を設けました。
質問1:自立的なマインドを持っているケイ・アンさんですが、ご自身と同じような境遇から抜け出せない人たちとの違いを感じますか?
ケイ・アンさん:自分は、つらい経験をしていた時、将来はこの生活から抜け出したい、将来自分の子どもには同じ経験をしてほしくないと思っていました。また、自分の周りに努力してつらい状況から抜け出していた人達がいたため自分にもできると信じて自立的なマインドをもち続けることができました。
質問2:ジュードさんが、大変な経験をしていた当時に心の支えになっていたことはなんですか?
ジュードさん: 当時私の心の支えになっていたのは、チャイルドホープです。いつも私に寄り添い、学校に行くことをいつも促してくれ、夢を持ち、それを諦めないことを教えてくれました。また家族、特に母の存在が大きかったです。一人で私たち家族を支えてくれた母に恩返しをしたいという気持ちが自分の心の支えになり、頑張ることができました。
質問3:ジュードさんに質問です。現在、ストリートチルドレンを支援していて、自分が小さかった時と変わったことはなんですか?
ジュードさん:路上で生活している子どもの数が増え、違法薬物やスマートフォンが手に入るようになったことで、子どもたちが悪い事に手を出すのを抑制することが難しくなったという印象があります。
質問4: フィリピンのストリートチルドレンをゼロにするためには、何が一番必要でしょうか?
ケイ・アンさん:路上で生活する子どもたちの親自身の行動が一番重要だと考えています。子どもたちが働く理由は、両親が十分な収入を得ていないことにあるため、親が変わっていかなければなりません。そのような親に対する収入向上のためのプログラムとして、例えば、親が技術を身につけ収入を得て、子どもたちを学校に行かせることができるような支援があるとよいのではないかと思います。
ジュードさん:私は、今日の若者たちは明日の社会を担っていくリーダーであると信じているので、かつて路上で生活していた若者たちが活躍するためのサポートが必要なのではないかと考えます。また、ACC21やチャイルドホープのようなNGOの活動が非常に大切です。政府にはできない活動を実施し、長期間子どもに寄り添った活動をできると思います。私は政府組織(注:バランガイの青年評議会委員長は政府職員)とNGO(非政府組織)の両方で働いたことがありますが、その経験からNGOのほうが持続性の高い活動をすることができると考えています。実際に、私はNGOであるチャイルドホープの支援を受けて、子どもたちのリーダーとなり、現在はNGO職員として路上で生活している子どもを支援する立場になりました。チャイルドホープの支援の成果は、私を通して持続的に残っていると言えると思います。だからこそ、NGOの活動は重要なのです。
質問5:ストリートチルドレンから物乞いをされたことがある人に、してほしいことや考えてほしいことは何ですか?
ケイ・アンさん:以前に比べお金をあげる人が増えているという印象がありますが、お金をもらうと薬物・シンナーやギャンブルに使ってしまう子どもがいるので、食べ物などをあげたほうがいいと思います。実際、私は教会の神父さんのサポートを受けていたのですが、その時は神父さんが校長先生に私の昼食分としてお金を渡していました。このように、しっかりと子どもの将来に役立つような支援の仕方をする必要があります。
ジュードさん:幼い頃は、お金でも食べ物でも、どんなものでも嬉しく受け取っていました。最近は食べ物を拒み、お金が欲しいと訴える子どもが多いように思います。ストリートチルドレンを支援したいと思うなら、信頼できるNGOを通して支えるのがよいと思います。
質問6:ケイ・アンさんとジュードさんにとって、フィリピンはどのような国ですか?
ジュードさん:私にとってフィリピンは、ベストな(一番の)国です。SDGs達成に向けて様々な意見を出して活動しています。しかし、政府のシステムにはまだ課題があります。もっと若者が活躍できる機会を作っていくことが重要だと考えます。
ケイ・アンさん:私にとってフィリピンは、きちんとした国だと思っていますが、改善点もあると思います。例えば、政府のプロジェクトにおいて、目的とずれたところにお金が使われてしまうことがあります。また、フィリピンでは、人口の増加に伴って、路上で生活する子どもも増えていると感じます。しかし、一人一人が変わっていくことで国も良くなると信じています。
◆フィリピンのストリートチルドレンZEROのために私たちができること
ケイ・アンさんやジュードさんのように、ストリートチルドレンが支援につながり、路上を抜け出し、社会で活躍できるようになるために、日本に暮らす私たちには何ができるでしょうか。
本フォーラムの冒頭で、主催団体・アジア・コミュニティ・センター21(ACC21)の伊藤代表理事は、「今回のフォーラムが、参加者にとってフィリピンのストリートチルドレンとこれからの旅路を共にする、そして彼らや彼女たちがより良い人生に向かって前進するスタートの機会になれば嬉しい」と話しました。これまで40年以上にわたりアジアでNGO活動に従事してきた伊藤氏は、最初にフィリピンでストリートチルドレンと出会ってから約40年が経ったにもかかわらず、状況は改善しておらず、むしろ数が増加していることに衝撃を受け、フィリピンの経済成長の陰で「路上生活をしている子どもたちや家族は取り残されている現実に、理不尽さを感じる」と語りました。
そして、本フォーラムの最後には、もう一つの主催団体・アジア宗教者平和会議東京(ACRP東京)の篠原代表理事が「少しでも私たちができる支援をし、ジュードさんやケイ・アンさんのような若者を増やしていけるようなキャンペーンを行っていきたい」と、ACC21とACRP東京が共に取り組む「フィリピンの“ストリートチルドレンZEROキャンペーン」への決意を語りました。
ACC21とACRP東京は、2024年4月12日から5月31日まで、2年目となる「フィリピンの“ストリートチルドレンZEROキャンペーン」に取り組み、クラウドファンディングへの協力を呼び掛けています。
篠原氏は、ケイ・アンさんやジュードさんがストリートチルドレンの親の収入向上支援や若者への教育支援が必要であると提案したことに対し、「当事者の声を聴き、その方々の提案に応答することを大事にしたい」と話すとともに、「様々な支援活動をしていくことの本質は、ご登壇されたお二方のような若者を増やしていくこと」だと語りました。そして、辛い体験を明かした二人に敬意を示し、グローバルな世界の中でフィリピンの問題には「日本で暮らす私たちにも責任がある」と二人の話からの学びを共有しました。
◆ストリートチルドレンZEROキャンペーンへのご参加の方法
ぜひ、本レポートをお読みいただいた皆さまにも、今この時に路上で暮らしていることどもたちが、ケイ・アンさんやジュードさんのように支援につながり、教育を受け、健全に育つことのできる未来のために、「フィリピンの“ストリートチルドレンZEROキャンペーン」にご参加いただけたら幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。
《ご参加の方法》
1. クラウドファンディングへのご寄付(5月31日まで、目標額250万円)
2. #ストリートチルドレンZEROチャリティラン&ウォークへのご参加(5月19日まで)
3. SNSでの本キャンペーンについての投稿・情報拡散
本キャンペーンのX公式アカウント(@sc_zero2030)をぜひフォローしてください!
ハッシュタグ「#ストリートチルドレンZERO」をつけて、ご自身のSNSアカウントで投稿いただくのも大歓迎です。
※「フィリピンの“ストリートチルドレンZEROキャンペーン」のために、2024年5月31日までにいただいたご寄付は、現地のストリートチルドレン支援活動への助成、②路上で暮らす若者の自立支援、③キャンペーン推進のための事業管理費のためにとして大切に活用させていただきます。路上で暮らす子どもがいない未来のために、皆さまのご支援をよろしくお願いいたします。
最後に、本フォーラムの開催にあたり、通訳を務めていただいた福田浩之氏(認定NPO法人アイキャン事務局長)に御礼を申し上げます。
(報告:辻本紀子、石山芽依)