日韓みらいスタディツアー(2024年11月)実施レポート
第2回目となる「日韓みらいスタディツアー」は「韓国市民・学生との対話と実地体験から学ぶー植民地時代、南北分断、市民活動と現代社会」をテーマに、2024年11月1日から5日間で実施しました。
「日韓みらい若者支援事業」共催団体・同事業運営委員の麻生水緒((特活)AsiaCommons亜洲市民之道 理事長)とともに同行した、シャープ茜(事業担当)が実施報告をお届けします。
日本からは大学生、会社員の20歳代の計4名、そして韓国からは大学生など28名(一部プログラムへの参加)が参加しました。このうち、第1回目のツアーにも参加した人は日本1名、韓国から2名で、再会を喜び合いました。
前回に引き続き、朝鮮戦争の歴史を学び、韓国の若者・市民との対話交流を行ったことに加え、今回は、韓国の市民活動や現代の社会問題について理解を深めました。
~1日目~
日本から各自がソウルに集合した日の夕方に、「植民地歴史博物館」でのプログラムから開始されました。韓国からの参加者が合流して自己紹介した後、同博物館責任研究員の野木香里さんから展示解説をしていただきました。“当たり前”だと思わされていたことが、実際はどうだったのかを考えさせるような展示内容となっており、日清戦争や日露戦争での状況、植民地支配に関わった人のことなどについて聞きながら、展示物を見てまわりました。
その後、会議室で軽食をとりながら、各参加者がツアーに参加した理由やツアーに期待すること、展示を見た感想などを共有しました。同博物館対外協力室長の金英丸(キム・ヨンファン)さんは、北海道で強制連行の犠牲者の遺骨発掘活動に始まった日韓共同ワークショップに大学生の時に参加し、北海道を訪れた時のことを話し、「スタディツアーは自分の人生を変えるきっかけになる」と力強く語りかけました。参加者からは「展示を見ると日本の歴史の授業で習っていないことばかり。忘れることなく記録し、教育していくことが必要」という意見が寄せられました。
~2日目~
ジャーナリスト、徐台教(ソ・テギョ)さんの解説を受けながら、坡州(パジュ)市が実施している非武装地帯(DMZ)のツアーに参加し、朝鮮戦争時代に北朝鮮が堀った第3トンネル、都羅(トラ)展望台、統一村を回りました。2024年2月とは南北関係情勢の変化により、同展望台の屋上で北側を望遠鏡で見ることはできませんでした。
臨津閣(イムジンガク)平和公園(非武装地帯内の平和公園))を歩いて回り、朝鮮戦争時の弾痕が残る車両や橋などを見学した後、烏頭山(オドゥサン)統一展望台に車で移動し、望遠鏡と肉眼で北側を眺めました。
ソウルに戻り、カフェで一息つきながら、徐台教さんから南北関係情勢や韓国の現状などについて解説を受け、この日の振り返りを行いました。「北朝鮮は遠いところで、どういう場所なのか実感が湧いていなかったが、行ってみたら見える距離にあると実感した」「分断されている状況はあるけれど、そこには住んでいる人がいる。目で見たら、普通に町がある。話を聞いているだけでは知ることができない」など、報道されていることと実際見たことの差などについての感想を述べ合いました。
~3日目~
「韓国の市民活動を知る」がこの日のテーマ。当日最初のプログラムでは「格差」や「権力を持つこと」について、韓国多様性研究所のキム・ジハク所長によるワークショップと講演が行われ、社会には多様なアイデンティティがあることや「インクルージョン」とは社会の人が平等に生きるための実践を意味すること、などについて学びました。第1回ツアーで講師をつとめた社会起業家のイ・イェスルさんに、ワークショップのコーディネートと通訳をしていただきました。
イ・イェスルさんの案内でソウルの街に出て、チョンテイル記念館(韓国の労働運動家・全泰壹(チョンテイル)氏は平和市場の劣悪な労働条件の改善を求める集会で焼身自殺をした)、セウォル号沈没事故やソウル梨泰院雑踏事故の犠牲者を追悼する場所を訪れ、市民運動の歴史や状況を肌で感じてきました。
この日最後のプログラムでは、形成外科医で、活動家のキム・ギョリさんから、アメリカで乳房の再建手術を学び働いた経験や、「国境なき医師団」に参加しガザやナイジェリアで手術に携わったこと、韓国の病院にLGBTQセンターを作った経緯などを聞きました。
振り返りの時間では、「自分だけが楽になるのではなく、誰もが生きやすい社会になることが重要」「長い時間をかけてもたくさんの議論をし、多様性のある、平等な社会の実現を達成する必要性がある」など、感想や質問が途切れることがなく、この1日を通して行った3つのプログラムでの学びがつながりました。
~4日目~
京畿道烏山(オサン)市にあるハンシン大学の学生の案内でキャンパスツアーを行い、広大なキャンパス内で図書館や体育館などを見学しました。日本の大学キャンパスと違い、民主化運動に関わった人を追悼する石碑があちこちにありました。
その後、中村桃子さん(同大日本学科講師)の日本語と日本社会についての授業に参加し、ツアー参加者と学生が日本語でグループ・トークを行いました。話した内容は、日本語や韓国語を学んだきっかけ、韓国にはないというゼミ文化、日韓の歴史問題など多岐にわたり、75分の授業があっという間に終わりました。
その後、近隣のカフェに移り、ハンシン大学の学生と一緒にツアー全体の振り返りと総括を行い、4日間の各プログラムで学んだことや感想を共有し、自由な雰囲気で質疑応答や意見交換が行われました。生徒会や部活、選挙についてどう思うかなどの話題が次々にあがり、日韓みらい若者支援事業の“語り場”活動でのような雰囲気になっていました。
ハンシン大の学生からは「韓国の大学で日本人と一緒に授業を受けるのが珍しい」「日本語をあまり話す機会がなかったから、駅から大学まで一緒に歩きながら話せたのが良かった」などのほか、第1回ツアーでも参加した韓国の学生からは「より良い韓国と日本の交流があるためには、お互いの国の歴史を正しく知ることが大事だと思う」とコメントがありました。
本事業運営委員の麻生(事業共催団体・NPO法人AsiaCommons 亜洲市民之道 理事長)は、「先ほど、この場で、“同じものを見ても違った学びがある”という意見が出ましたが、せっかくここで集まった社会の話ができる貴重な仲間なので定期的に会って“最近思うこと”を聞き合うオンライン対話時間があってもいいかもしれない」と話しました。
~5日目~
最終日は、ツアーを現地解散した後に、参加者と韓国の大学生が近隣を散策しました。
最後に
どこに行き、誰の話を聞き、何を学ぶかも大事ですが、スタディツアーとは、参加する人たちと共につくりあげるものだということを、再確認しました。そこで出会い、対話する人たちによって、同じものはない旅になるのではないかと思います。
今回のツアー参加者どうしや、第1回のツアー参加者、本事業の学習会、語り場活動の参加者たちとつながり、学びや対話の場が築かれ、より良い未来の実現のために行動することを願い、応援していきたいと思います。
※旅行企画実施:エアーワールド(株)、問い合わせ・申し込み先:(株)オルタナティブツアー、ツアー呼びかけ団体:認定NPO法人アジア・コミュニティ・センター21、NPO法人AsiaCommons 亜洲市民之道
(報告:シャープ茜(「日韓みらい若者支援事業」担当))